次世代型コンタクトセンターを目指す、CX本部の歩みとこれから
お客さまの声に耳を傾けながら顧客体験価値の向上に取り組む、CX本部。
2022年9月に新設されてから、出前館のCXにまつわる課題を解決し、プロダクトやサービスの改善に努めてきました。今回は、CX本部の立ち上げをリードし、本部長として組織を統括する守屋さんに、CX本部が取り組んできたプロジェクトや、目指すべき姿について伺いました。
守屋 貴祐
執行役員 CX本部 本部長
飲食企業にて複数のブランド責任者に従事したのち、飲食系のフリーのコンサルタントとして独立。2020年に株式会社出前館に入社後は、配達代行を管理する部署に配属となる。2022年にはCX本部の設立を担当し、本部長として組織の立ち上げやオペレーションの改善等を行う。
サービスの満足度を上げ、なくてはならないライフインフラへ
── 出前館における「CX」の定義について教えてください。
我々のサービスのステークホルダーは、出前館を通じて注文してくださるユーザー、レストランなどの加盟店、そしてお届けを担当する配達員の3者です。これら3者の体験価値を「CX」として定義しています。
全社戦略としてユーザー体験・満足度の最大化を目指す中、CX本部では「地域の人々の幸せをつなぐライフインフラとして定着する“サービス”を提供し、利用価値を向上させる」をビジョンとして掲げています。
── なぜ今、全社的にユーザー体験や満足度に注力しているのでしょうか?
コロナ禍までの出前館は、全国的な認知度拡大とサービス展開にコミットしていたがゆえに、ライフインフラを目指す水準ほど満足度の高い体験を届けきれていなかったからです。
昨今の出前館を振り返ると、サービス認知率は90%を超え、フードデリバリー業界の中でもDAU(1日のうちアプリをアクティブに利用しているユーザーの数)No.1を獲得しました。CMの放映などで認知獲得にパワーをかけた結果、一定の成果が出たと思っています。
認知獲得の次に出前館が目指していくのは、ライフインフラとして世の中になくてはならない存在になることです。そのためには、サービスの本質的な価値向上が欠かせません。提供するサービスのクオリティを上げて、ステークホルダー3者に「良い体験」を届けていくことが何よりも重要となってきます。
── サービスの本質的な価値とは、どういったことでしょうか?
例えば、映画の予告を見て「面白そうな映画だ」と感じたのに、いざ本編を観てみたらそれほど面白くなかった経験って、みなさん一度はあると思うんですね。本編を観た後に、「この映画を観れて良かった」「良い時間だった」と感じてもらうことが、サービスの本質な価値だと私は認識しています。
一方で、これまでの出前館は、映画を観た後に「予告のほうが良かった」と感じさせるような要素があったと私は思っています。ユーザーの期待を超えられないのは、サービスとして非常に残念なことです。
── これまではどのような課題があったのでしょうか?
コロナ禍にユーザーを一気に伸ばすという戦略を打ち出していたことから、オペレーションやアフターサービス部分は後手に回る状態にあったと理解しています。そのために、サービスの成長に運用が耐えきれない部分もありました。
さらに、各ステークホルダーに対応するCS機能が分散しているという課題もありました。さまざま部門にCS機能が紐づいていたため、CX全体としての戦略を立てることが困難な状況だったのです。
これらの課題を解決し、ステークホルダーの体験価値を向上させるため、2022年9月にCX本部を設立するに至りました。
── そこで、守屋さんに白羽の矢が立ったわけですね。
CX本部が社内外にもたらした大きな変化
── 設立にあたって、守屋さんが苦労したことや乗り越えなければならなかった壁はありましたか?
全くの未経験な領域を管掌するという難しさがありました。私はこれまで配達代行を管理する部署にいたので、コンタクトセンターのアフターサービスや加盟店の出店の領域は経験がなく、立ち上げ当初は業務的な不明点がかなり多くありました。
ただ、経験があるから全てが上手くいくかというと、そうでもないのが仕事だと思っています。知識がないからこそ、そもそもこの業務はどのような目的で、どうやって行っているのか、現場の皆と細やかにコミュニケーションをとっていきました。
また、業界のイベントにも積極的に参加して、オペレーションやアフターフォロー領域の最先端の情報をキャッチアップし、現状とのギャップや課題を把握しました。知識を一つひとつ積み上げていくことで、未経験な領域にも徐々に対応できるようになっていきました。
── これまでのプロジェクトで印象に残っているものを教えてください。
CX本部を立ち上げてから最初に取り組んだ、問い合わせフォームの実装プロジェクトです。フォームを実装するまではお客さまからの問い合わせを一件一件有人チャットで受けていたのですが、1on1で話せるメリットもありつつ、「どの商品がどんな状況で……」と細やかにヒアリングする必要がありました。どうしても時間がかかるので、ユーザーの負担も大きく、不快感を与えてしまうという課題が背景にはありました。
それが、問い合わせフォームの実装により、写真の添付や、詳細の入力ができるようになりました。対応がスピーディになり、顧客体験を大きく改善することができたプロジェクトでした。
── 問い合わせフォームを皮切りに、さまざまな改善に取り組まれたかと思います。CX本部の設立によって、社内ではどのような変化が生まれましたか?
成果を可視化し、社内共有できるようになったというのが大きな変化です。これまでは、課題はあるけれどどのように改善すべきかが見えにくかったり、ユーザー数の増加にオペレーションが追いついていなかったりする状況でした。そのため、提供価値向上に向けてのアクションがとれず、モヤモヤした気持ちを抱えながら仕事にあたるという空気感が少なからずあったように思います。
しかし、CX本部が立ち上がってからは、各グループごとに目的を明確化し、KPIを定め、成果を社内に報告するという流れが出来上がりました。課題を発掘し、取るべきアクションを見える化したことで、PDCAもしっかりと回るようになりました。どのように改善できたのか、数字で語れるようになったおかげで、社内の空気感にも良い変化が生まれたように感じます。
── 社外の変化についてはいかがでしょうか?
加盟店やコンタクトセンターに問い合わせされた方の満足度調査を行っているのですが、CX本部発足前と比べ、20%ほど満足度が高くなっています。お客さまの体験の質を向上させられているというのが、最も大きな変化です。
── 具体的には、3者からどのような声が集まっていますか?
エンドユーザーからは、対応が早かったという声が少しずつ増えてきています。我々は食事や日用品をクイックに配送するサービスを提供してるので、問題があった際に、いかに迅速に対応できるかという観点が非常に重要です。以前は「時間がかかっている」というご指摘もあったのですが、CX本部発足後はクイックな対応を評価いただけるようになってきました。
出前館に出店いただく加盟店からは、出店時の満足度調査で9割近い方々から「対応が非常に良かった」という声をいただくようになりました。最初に満足度調査を行った際にはあまり高い数字ではなく、「マニュアルがわかりづらかった」「対応者の話す言葉が難しかった」といった声が集まっていました。そこから、アンケートを元にマニュアルを改善したり、知らず知らずのうちに使っていた社内用語を1つずつ直したりして、直近のアンケートでは高い満足度を得ることができました。
配達員の方からも、対応の早さを好意的に受け取っていただいています。配送中のトラブルでご連絡いただくケースが多い中、これまでは電話を取るまでに時間がかかっていました。現状では、20秒以内に受電できる状況をつくれているので、「クイックな対応に満足した」という声をいただいています。
── 着実に提供価値を上げてきているのですね。
「お客さまの声を活用する、新しいコンタクトセンター」の代名詞に
── すべてのステークホルダーの満足度を高めるために、大事にしてきたことを教えてください。
目的を見失わないことです。「とりあえずやりましょう」とやみくもに取り組むのではなく、何のためにするのかという目的意識を強く持ち、課題をしっかりと可視化した上で行動に移してきました。
基本的に、本質的な課題を捉えて正しいアクションをしていれば、良い結果は出るものだと私は感じています。「これに取り組んだら絶対に良い結果になる」という推測のもと、本当に結果が出てくれば、仕事は面白くて仕方なくなるんですよね。
裏を返せば、結果が出なければ主体性も薄れるし、しんどくなってきます。本質的な課題を見つけて結果を出せるよう、一緒になって議論していきたいですし、改善の提案を歓迎する環境をこれからもつくっていきたいです。
── 社内外にさまざまな変化を生んできたCX本部ですが、これまでの成果を守屋さんはどのように捉えていますか?
立ち上げから1年半が経ち、ある程度の成果は出てきているかと思っていますが、まだまだ改善すべきところだらけです。焦る気持ちもあります。
私は3年間本気で取り組めば、どのような新しい領域でも成果を出せるようになると考えています。高校野球なら、プロに行けるところまで成長できるかもしれません。我々もさらに1年半後には、プロと名乗れるレベルまで到達しないといけないと思っています。
── 1年半後、どのような状態になることを目指していますか?
出前館のアフターサービスや出店におけるオペレーションが最高だと感じていただける状態にしたいです。現在は、映画に例えると観たあとに「悪くはない」という感想を持っていただけるレベルだと自分では評価しています。ただ、「人生のお気に入りの映画」にはランクインしない可能性が高いです。
他社と比較しても圧倒的に素晴らしい品質だと思っていただけるよう、単にアフターサービスを提供したり、オペレーションを回したりするのではない、次世代型コンタクトセンターを目指していきたいです。
── 次世代型コンタクトセンターとは?
お客さまの声をサービスやプロダクトに反映させていくコンタクトセンターです。
CX本部の根本にあるのは、何よりもお客さまの声です。いただいた声をもとに、「サービスをどのように変化させるのか?」「プロダクトをどのように改善していくのか?」という戦略を立て、会社として取り組んでいける仕組みを構築していきたいと考えています。
そしていずれは、業界の中でも「お客さまの声を活用する、新しいコンタクトセンター」の代名詞になりたいですね。
── CX本部では新たな仲間も募集されていますが、このタイミングで出前館のCX本部に入社することのメリットを教えてください。
現状、CX本部はやるべきことが山積しています。裏を返せば、課題を発見し、周囲を巻き込みながら改善していける余地がたっぷりとあるので、「ビジネスに寄与している」という実感を強く持てるはずです。「自分が変化させたんだ」と誇りを持てると思いますし、自信にもつながるのではないかと思います。
出前館としても、圧倒的No.1のプラットフォーマーを目指せる位置にきており、リテール領域への市場拡大やこれからリリースを予定しているクイックコマース事業など、業界自体もこれからさらに裾野が広がっていくタイミング。ベンチャー精神があって、より事業をスケールさせていきたい方にとっては、面白いフェーズではないかと思っています。
お気に入りの映画のように愛され、最高の体験を届けられるサービスやプロダクトを、一緒につくっていけたら嬉しいです。
── ありがとうございました。
取材・執筆/早坂みさと